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天狐あやかし秘譚

第74章 雲蒸竜変(うんじょうりょうへん)


私の視野の半分は相変わらず野づ霊のものであり、私から伸びた縁の糸の痕跡を追っている。糸はこの斜面の上まで続いていた。昼間であったり、土御門様の十二天将のように式神の視野の性質を変えられれば、もっと登りやすい道を見つけることができるかもしれないし、そもそももう少し広範囲にわたって操作できるタイプの式神なら、式神だけを上に送ることもできるかもしれない。

しかし、残念ながら、私の野づ霊は視野の切り替えにも遠距離操作にも対応していない。あくまで私の近くにいて、私自身をサポートするのみなのだ。これは、基本的に射程が短い『土の術式』を使う、土の術者の宿命といえる。

えっちらおっちらと暗い山道をなんとかして登っていくと、少し開けたところに出た。縁の糸がその場所の一点に吸い込まれていっているのが見えた。そこに懐中電灯を向けると、古い祠のようなものがある。

ここが、怪異の中心・・・?いや、違いますね。

そう、たしかに縁の糸はそこに吸い込まれているのだが、ここが怪異の中心ではないのは明白だった。祠を仔細に調べてみると、どうやら昔の石敢當(いしがんとう)のようだ。通常は村と道との境界を守るために辻などに置かれるものだ。

周囲を懐中電灯で照らしてみるが、今、私が登ってきた道と垂直に交わるように林道が走っているほかは、鬱蒼と生い茂る木々があるのみだ。特に村のようなものは見当たらない。ということは、あの木の向こうが昔は村だった・・・か、もしくはこの林道のどちらかの先に村があるか・・・ですかね。

そして、ここに縁の糸が吸い込まれているということは、この石敢當の中に土門がいる・・・わけないですよね。

さて、困ったぞ、と思う。たしかに石敢當は辻神を封じる働きのある石碑ではあるので、今回の事件に何らか関係があるはずですが、手がかりが途切れてしまったようにも感じた。

そうはいっても、これしか手がかりがないので、しばらく石敢當の周囲を調べたが、その時に、チリっと首筋に何かの気配を感じた。立ち上がり、慌てて周囲に注意を払う。

この気配・・・何か呪的なものが近づいている・・・?

野づ霊も私の足元で鎌首を上げ、あたりの様子を油断なく伺っていた。

あれは?
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