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天狐あやかし秘譚

第73章 合縁奇縁(あいえんきえん)


というわけで、ある程度の霊力があり、作法を知っている者ならば、縁を辿って、その人の元にたどり着くことは、比較的容易なのである。

私は土の術者だ。『道』は土性に属していることから、私の術式と相性が良いとも思ったのだろう。

人のことを縁を辿る媒介に使おうなどと・・・あなたの考えることはやはり一筋縄ではいかないですね。

私は『識神荒御魂』と墨字で書かれた召喚用の符を取り出し、呪を唱えた。

『陰陽五行 魔王天王 大自在 荒魂勧請』

ぼんやりと符が光り、ぽたりと地面に落ちる。それはたちまちのうちに鎌首をもたげたずんぐりとした蛇へと姿を変えた。青白く発光するそれは、普通の人間には見えない。陰陽師が用いる使い魔、式神である。

私の式神は名を『野づ霊』という。

「縁を辿れ・・・野づ霊」

自らの左目の視野を、野づ霊のそれと共有する。地面を這う野づ霊が見た景色が左目に投影された。蛇なので、温度に敏感だ。まるで赤外線カメラで周囲を見ているような感じに見える。生きているもの、温かいものはぼんやりと白く光り、冷たいものは暗く沈む。視野を調整する。縁を見るために霊的なものをより的確に捉える形に切り替える。

視野が一転し、緑色を帯びる。そして、周囲に光り輝く糸のようなものが縦横に走るのが視える。これが『縁』だ。野づ霊の顔をこちらに向けると、『私』が見える。自分の左視野に自分が映るということに、術を覚えはじめの頃はいささか戸惑ったが、式神を使っているとよくあることだ。もうすっかり慣れてしまった。

ああ、やはりそこに一番強い縁が結ばれていますか・・・。

私の唇から一筋ひときわ明るい縁の糸が走っているのが見えた。その糸は、北側の空にすーっと伸びていた。

見た感じ、大分遠いところのようですね。
いったい、何処まで連れ去られたんですか、あなたは・・・。

方角を確認すると、私は、陰陽寮の駐車場に止めていた愛車に乗り込み、エンジンを掛けた。野づ霊もするりと車に入り込み、ダッシュボードの上に陣取る。

「さあ・・・行きましょうか」
私は独り言のように言うと、車を出発させた。

無事でいてくださいね、土門さん。
あなたには、文句を言わなければならないことが、まだまだたくさんあるんですから・・・。

夜の街の中、私の愛車は滑るように走っていく。
私と、彼女の縁の糸を辿って。
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