第1章 死神と鬼狩り
杏寿郎side
風呂から上がり部屋に戻ろうとすると、リーンが縁側に腰掛けてるのが見えた。どうやら月を見てるようだ。
その姿はとても美しく魅入ってしまうほどに。
真っ白な長い髪は絹のようにしなやかで初めは高い位置で結われていたが、今はゆったりと片側に流している。
刀の名が氷雪の蘭と話していたが、刀も綺麗だが本人も同じく綺麗だと思う。まさに雪の精かと思うほどに。
瞳の色も深い藍色でこの世界の住人なら水の呼吸の使い手。もしくは派生して雪の呼吸になるだろうなと考えを巡らす。
そうしてるうちに彼が月に手を伸ばそうとしていた。
その月を見つめる瞳が何故だか悲しみに満ちてるようでまさしく咄嗟だった。咄嗟に彼の手を掴んだ。
ーーパシッーーー
「行くなっ!!」
リーンが驚いた様子でこちらを見上げる。
「どうした?私はどこにも行かないが。」
「いや、なんだが君がどこか遠くに行ってしまうような気がして、、。」
「杏寿郎、君が言ったんだよ?これからは君と行動を共にするんだって。だからどこにも行かない。ただ、月を見ていただけだよ。」
掴んでいた俺の手を手に取り、ふんわりと子どもに言い聞かせるように話すリーン。
「だが、君が泣いているから、、。」
「泣いてるように見えるかい?私は涙なんて流した事は」ない。と言い切る前にーーーぽたーーー
リーンの膝の上に雫が落ちる。
「え、、な、に、、?」
「泣いた事がない人間なんていない。君は泣き方を忘れただけだ。」
そう言って杏寿郎はリーンを抱きしめる。
「人が泣くのは悲しいだけじゃない。嬉しい時にも泣くし、楽しくても泣く、もちろん悔しい時もあるが。これからこの世界で生きていくんだ。俺が泣き方を思い出させてあげよう!何があっても俺がそばにいる!だから今日は思う存分泣くがいい!!」
その言葉を皮切りにぽたぽたと涙が溢れリーンの顔を覆う杏寿郎の襟元を濡らしていく。
「お、じいさまっ、ごめんなさい、、待機、め、れいを無視して、、挙句、、ヒック、、なにも、できず、、無駄死に、、してしまった、、っ!!」
あぁ元に戻る方法がないと言い淀んでいたのはこの事か。彼はあちらの世界で恐らく敵に殺され、そしてこの世界に来た。着物の血はきっとその時の物だ。
しばらく泣き続けた後リーンは泣き疲れたのか眠りについた。
