第5章 縮む距離
「こ、婚約者…いるんじゃないの?というか、もう結婚してるんじゃ…。」
悟くんは一瞬目を見開いて、すぐに優しく微笑んだ。
「いるけど、僕はもう死んだことなってるし、なくなったんじゃないかな。結婚はしてないよ、する気なかったし。」
でももし、その人が待ってたら…?
不安になって目を見つめていると大丈夫だよと言ってくれる。
「僕、婚約者のこと好きじゃないんだよね。嫌いってわけでもないけど、どうでもいいんだ。あ、でも……何回かやった。」
え、やったって…そういうことだよね?
やだ…やだ、そんなこと言わないで。
涙が零れないように眉間に皺を寄せても、ぽろぽろと零れていく。
「あ、ごめん…やだよね?僕も奏音が他の男知ってたらやだし……ごめん、泣かないで。好きなのは奏音だし、結婚したいのも奏音だよ。」
まだ蟠りは消えないけど、悟くんの気持ちが本物ならそれでいい。
抱き締められて背中を優しく撫でられる。
「好き、好きだよ。奏音が好き。」
耳元で発せられる低くて優しい声が心地いい。
どのくらいかそのままでいると私を膝から降ろし、待っててと布団の準備を始める。
今から…悟くんに…。
敷かれた布団は1組だけ…その布団に一緒に横になると、悟くんは私を腕に閉じ込めておやすみと言った。
え?しないの?
足が絡んで重い…。
「さ、悟くんっ…寝るなら服着たい…。」
私はTシャツ1枚だけだし、悟くんは上半身裸だ。
こんなんで寝れるはずなんてない。
「着てるじゃん。」
「それは……触らないの?」
「触って欲しいの?泣いてたから、今日はやめとこって思ったんだけど。」
また触って欲しいなんて言えない…。
恥ずかしくておやすみと言って目を閉じた。