第23章 過ぎていく疾走
それから決勝に向かい、このGPも加賀の優勝で決まる。
ここにきて、ハヤトが絶不調に追い込まれていた。
第8戦まで終わってハヤトはリタイヤが続き、その間に加賀は点数を伸ばしていく。
「…ッッ…くそ!!」
荒れ始めるハヤトをなだめるあすか。そんな二人を見ていた雅は少しだけ気持ちが落ち込んでいた。
当然、恋人としては加賀の勝利が続くことは嬉しかった。そうは言っても自身は今現時点はスゴウのチームクルー。
「…難しいよな…」
そう呟いた、そんな時だった。
「何言ってんのさ」
「…アンリ?」
フロント前のロビーのソファ、とすっと雅の座っている横に腰を下ろすアンリは顔を向ける事も無いままにじっと雅の言葉を待った。
「…ううん、なんでもない」
「その言葉が通じるのは単なるクルーだけ、僕に通じないって知らない?」
「……ッックス…」
「何笑ってるの?」
「前にオーナーだったかな…同じこと言われた。」
「…ほら」
「ハァ…」
「何があったわけ?」
「…迷ってるってのが本音かな」
「…で?」
心配をしているというわけでもない位の表情をしたアンリだった。
「…加賀さんとの事…」
「またなんで」
「…ほら、今スゴウ絶不調でしょ?」
「悪かったね」
「アンリは完走してるけど…まぁ、リタイアもあるけどね?」
「風見先輩の事?」
「…ん」
「そんなの雅が気にすることじゃないでしょ」
「…そうなんだけど…」
「それで?加賀が1位で点数伸ばしてるからって気にしてる訳?」
「…」
こくんと小さく頷いた雅を見てアンリは盛大にため息を吐いた。
「ばっっっっかじゃないの?」
「そんなに溜めることある?」