第8章 開戦
後衛は前衛に比べ、まだ戦場は激化されていなかった。が、初めての戦となると、身体が言うことを聞かない。
「(落ち着け、落ち着け。ここには光秀さんがいる。だから大丈夫‥)」
幾ら自分に言い聞かせても震えが止まらない。このままじゃみんなの足手纏いになると思い、グッと手を強く握る。
「そんなに身体を張っているとクマが仁王立ちしたみたいだぞ」
「く、クマ?!私がですか?!‥仕方ないじゃないですか。身体が強張るのも、震えが止まらないのも‥」
「まあ、無理はない。誰しも初陣はそんなものだ。だが、‥」
光秀さんが言いかけているとき、家臣の一人がやってきた。
「敵軍、西より迫ってきます!武田軍です!」
「ほう、横から来たか‥流石は甲斐の虎」
「関心している場合ですか?前衛は無事なんでしょうか‥」
「交戦はしているが突破されたわけじゃない。向こうのほうが地の利がある。気配を最小限にして、兵も少数精鋭にして獣道からきたんだろう」
種子島を準備していると、武田軍が姿を現した。
「信玄本人はいないようだ。だがここを潰されれば陣まで攻められる。皆、心してかかれ」
光秀さんの合図で一斉射撃が始まった。騎馬隊は歴戦されているだけあって、動きが違う。
「美桜、耳は塞いでもいい、だが、目は開けておけ」
「目、ですか?」
「ああ、お前がこれから生き抜いていかなければならない、現実だ」
光秀さんの撃った弾は敵に命中し敵がどんどんと倒れていく。
「(これが、戦国時代‥私は今までどこか、甘く見ていたのかもしれない‥)」
後衛は突破されることなく、敵は退避して行った。
「ほう、俺は当たりを引いたようだな」
戦場の真ん中で信長と謙信は対峙していた。その直ぐそばで兵達が戦っている。
「亡霊が蘇ったか」
「お前も似たようなものだろう。いざ!」
謙信の重い一撃を信長は受け止めて横に流す。軍神という二つ名を持つだけあって強い。
しかし、信長も攻撃を繰り出す。
「腕は鈍っていないようだな」
「当たり前だ、俺は戦が楽しい。弱っては楽しみが減るであろう」
謙信が隙を突いてきたが信長は身体を後ろに引かせ、急所を避ける。
やがて周囲の戦闘も泥沼化してきて一旦体勢を整えようと兵に命を出そうとした時、信長の動きが一瞬、止まった。