第6章 訓練開始
知りたいと思っても入ってはいけない領域な気がして中々踏み込めない‥
そんな思いが募っていることに自分でも驚いた。なぜこんな風に思うのか、わかりそうでわからないこの気持ちを一旦頭の隅に追いやり、おはぎを食べた。
「‥光秀さん、なんですかその食べ方‥」
「効率よく食べているだけだが」
「おはぎとお茶を混ぜて食べる人なんて初めて見ましたよ」
「(だから去り際、政宗が光秀さんの名前を念押しして言ったのか‥)」
「味覚どうなってるんですか‥」
「俺はもとより味を気にして食べたことがない。腹に入れば皆同じだ。だから酒も水のようだと思っている」
衝撃の発言にむせそうになった。
「(味を気にしない‥?!お酒が強いのも理由がそれ‥?!)」
「お医者様に診てもらった方が良いのでは?」
「診てもらったが異常ないだと。不便はないから別に構わない」
案外真面目に答えてくれ、可笑しさが混み上げる。
「っふふっ、ふふ、なんだか、可笑しくなってきました。なんでもできそうな光秀さんが味音痴なんて‥ふふっ」
「お前の笑うツボがわからんな。俺は味がわからないという弱点を話した。お前の弱点を話してもらおうか、美桜」
「光秀さんが勝手に話したんでしょう‥まあ、良いですよ。一つくらい。そうですねえ、虫が苦手ですね。何をしでかすかわからないです」
「見た目ではなく、予測不能な行動で苦手か‥お前も中々おもしろいぞ」
おもしろいと言った光秀さんの顔は普段の意地悪な笑みとは違い、優しい笑みを浮かべていた。
「(綺麗な笑顔。もっと笑えば良いのにってこの人は無理か‥)」
しばらく他愛ない話をし、訓練を再開する頃には、いつもの緊張感は無くなっていた。
さらに数日後、また光秀さんの御殿で訓練をしていた。
「短期間で上手くなったものだな。戦で体術が使えなくなった時には困らないだろう」
「ありがとうございます。光秀さんのご指導のおかげです。‥使う機会はないと思いたいです」
「ふっ、俺は、御館様の命で指導したまでだ」
「それでも感謝しています。おかげで銃に呑まれずにすみましたし」
「‥‥そうか」
「(素っ気ない‥?)」
沈黙を破ったのは光秀さんの家臣だった。
-至急安土城に来るように と