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モニタリング

第15章 夢現


壁1枚隔てた先から、くぐもった声が聞こえていた。

最初は女のかすかな喘ぎだった。

次に、男の名を呼ぶ声。

「悟先輩……。」

と甘く濡れた響きで。

やがてベッドのきしむ音と、下卑た水音。

五条悟の低い吐息。

そして、絶頂に突き抜ける女の悲鳴。

――全部、聞こえていた。

隣の部屋で過ごしていた伏黒甚爾はベッドの上で静かに煙草に火を点けながら、その音に神経を研ぎ澄ませていた。

眉間に皺を寄せ、咥えた煙草をぐっと噛む。

甚「……ふざけやがって。」

女の嬌声は、まるで自分に聴かせるかのように響いていた。

いつかあの身体を貫いたときと同じ声だった。

なのに、今は別の男にその声を与えている。

しかも、俺の耳が届くこの距離で。

――なぜ、アイツなんだ。

――なんで俺じゃねえ。

嫉妬という名の怒りが胸の奥で煮えたぎる。

理性なんてとうに吹き飛んでいた。



────────────

彼の唇が離れた瞬間、部屋の空気はまだ熱を孕んでいた。

肌と肌が触れ合う音、吐息が絡み合う残響は薄い壁を越えて隣室にまで漏れていたことなど彼女も悟も気づいていなかった。

――ピンポーン。

不意に鳴ったインターホンの音に、彼女の背がびくりと震える。

ベッドの縁に腰かけた悟が、額の汗を手でぬぐいながら立ち上がる。

悟「……誰だよ、こんな時間に。」

何も纏わぬまま、彼は足元のズボンだけを拾い上げて履き、ゆったりとした足取りで玄関へ向かった。

扉を開けると、そこにいたのは――

悟「甚爾さん……?」

無言のまま立ちはだかる男の瞳は燃えるように鋭く、冷たい。

一瞬、空気が凍ったように思えた。

けれどその沈黙を破ったのは、彼の低く押し殺した声だった。

甚「……女を啼かせる声、壁越しに聞こえてたんだよ。良い趣味してんな、五条。」

悟「は? 聞こえてたって……オマエ、まさか隣に住んで――。」

甚「今さら何言ってんだよ。俺のほうが、ずっと前からアイツの喘ぎ声、知ってる。」

静かに、それでいて苛烈な嫉妬が滲んだ言葉。

悟の眉がぴくりと動いた。

悟「――は?」

背後のベッドルームでは薄いシーツにくるまれた彼女が、状況の異様さに息を呑んでいた。
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