第3章 鬼に稀血
「いっー!いやぁぁぁぁ!!」
「うるせェ!!叫ぶなぁ!!」
その声に仁美は目を開けた。
目の前にあったのは無造作に跳ねている白髪だった。
実弥は片手で肩に仁美を担いでいた。
怒っている実弥の顔を見て、仁美は安堵して涙が出た。
「引っ付くな!動きずれェ!!」
ぎゅっと実弥に抱き付いた仁美に、実弥は更に怒鳴った。
しかし、目の前に数体の鬼を確認すると、仁美の体を掴んでいる手に力が入った。
「……いや、振り落とされねぇ様にしがみ付いてろよ。」
仁美は実弥に抱き付きながら、目の前に現れた鬼を確認した。
それからは無我夢中だった。
本当に振り落とされる位に右往左往に振られて、仁美は落とされ無い様に彼にしがみ付くしか出来なかった。
体が浮くほどの豪風の中で、仁美はただ実弥の体温だけ感じていた。
実弥はずっと走りながら鬼を斬り続けた。
その内、鬼の声や弾く肉の音がしなくなった。
それでも実弥は走り続けたから、仁美はずっと目を瞑ったまま、実弥の首に手を絡めていた。