第8章 4枚の婚姻状
「…お前は俺が触れると、いつも優しく応えてくれるな。」
「…ええ…。義勇様が好きですから。」
仁美から好きだと言われて、義勇はいっそう目を細めた。
彼女の唇を奪って、激しく舌を絡めると、また吐息を吐いて唇を離す。
「…どうすれば、仁美のその気持ちが俺と同じになるんだろうな…。」
そう言った義勇の目は悲しさに揺れていた。
その言葉に仁美は心地よかった大好きな腕を、ゆっくりと放した。
「––––風……。」
「風?」
仁美がポツリと言うと義勇は目を見開いて彼女を見た。
無惨を愛したときはとても穏やかった。
時間が愛を育てているような–––。
会うたび心惹かれる。そんな愛だった。
––––だけどあの瞬間全てが変わった。
真っ暗な鬼の牢獄の中で体が浮くほどの暴風。
仁美は一瞬にして世界が変わったのが分かった。
無造作に揺れる白髪。
血走った目。
誰よりも傷付いている彼の姿。
仁美は実弥と目が合った時の衝撃を忘れたことがない。