第6章 虹色の目の無神論者
驚いた事に、無惨は童磨が見ている間、ずっと仁美を宥めていた。
煩わしい気持ちを抑えて、泣いている仁美を宥め続けている。
想像出来ない光景に童磨は驚愕した。
そして認めざるをえなかった。
無惨にとって仁美は他の人間とは違う。
人間どころか鬼にだって、こんなに慈悲を施す姿を見た事が無い。
「旦那様!!!」
しかし、結局無惨は仁美を宥める事をやめた。
仁美から離れる無惨を見て、童磨は彼がかなり苛立っているのが分かった。
そんな光景を生きて見ている自分すら稀な事だと思った。
無惨は居を出るとまた池の橋を渡り振り返る事なく姿を消した。
「…旦那様…。」
仁美は痛む下腹部を庇いながら這いずって彼の後を追った。
池の冷たい空気と蓮の花の匂いに顔を顰めながら、必死に橋を這って渡った。
「凄いねぇ、君。どうしてあの方にそこまで赦されているの?」
這いずっている仁美を見下ろしながら、童磨は陽気に仁美に聞いた。
「ねぇ。動くと傷が開くよ?」