第2章 情緒
いたい。
いたいいたいいたい。
右手痺れる。
でもおかげで頭、すっきりしてる。
身体起こすので精一杯で、起き上がることは無理そうだけど。
声だけでも柳瀬の意識をこっちに向けるには、間に合ったから、成功って言えるはず。
「…………莉央ちゃん!!」
柳瀬が手を離せば。
ぐったりと男が意識を手放して、床に転がる。
良かった。
息、ある。
「莉央ちゃん、手、ゆっくり開いて。ゆっくりだよ、それ、カッター?手当てしないと。」
「…………こわくて、手、うごかせないの」
力加減なんて気にしてる余裕なんてなくて。
ぐっさり刃を握りしめたせいで手が動かない。
「わかった。わかったから莉央ちゃん、人差し指からゆっくり動かすからね。たぶん、いやかなり痛いから、我慢出来なかったらこれ噛んで」
はだけたスーツのシャツから見える丸見えの肌が、どんだけ本気で殴り倒したのか理解できる。
ネクタイを外して。
折りたたんだそれを柳瀬はあたしへと渡した。
「離すよ」
「——————ッッぅ、っい、っ!!」
い、たい。
痛い。
痛い痛い痛い!!
刃から引き離すたびに傷口が開かれて。
痛すぎる。
カラン、て。
「終わったよ。大丈夫?痛いよね、今病院連れてくから。もう少し我慢できる?」
右手から離れたカッターが、床へと落ちて。
柳瀬の腕が、あたしを抱き上げる。
「まって!!まって柳瀬!!」
「なんで?身体動かないでしょ?」
「違う、違うの柳瀬。ちゃんと言って。あたしが悪いのわかってる。柳瀬が今ものすごく怒ってるのもわかる。でもあたしもすごく怒ってるの。だから話してちゃんと。誤魔化さないで柳瀬」
痛い。
手が痛い。
ああでも。
意識はクリアでいられる。
クリアなうちに、ちゃんと話したい。
うやむやになんかしない。
「お願い柳瀬」
「…………本気で言ってんのそれ」