第2章 最終選別(さいしゅうせんべつ)
高杉の落ち目とされたのは私の代の頃で
父上の頃はそこまでは言われてはいなかった
同じ足軽組頭でも…
悪いことをせず殺された父上の仇を、討てる機会を与えられたのに討てず、結局父上の友に討たせてしまった
腑抜け、軟弱者、様々な揶揄を掛けられた
罵声を浴びせられる中…ふと思った
初陣したばかりで家督を継いだ父上は…苦しくはなかっただろうか
同じ思いをしたのではないだろうか
ふとよぎった想いに駆られ、母上に尋ね
ようとしたが……出来なかった
殺された立場が違い過ぎる
仇討ち(あだうち)をしなかった想いも大きく異なる
状況も、場も、全てが……
私があの時動いていれば…
即座に判断して動いていれば……
父上は助かっていただろうか
矮小な、元服したばかりの私を…庇わず、死なずに済んだだろうか……
そのことばかりが悔やまれる
少しでも多くを生かすことに邁進した
少しでも多く、生きて帰れるように
同じ思いをしないように
誰も死なないように
苦しまないように
それが父上の願いだったから
叶えるのが…
せめてもの、生きている内に返せなかった恩義に応える行為だと
せめてもの罪滅ぼし
になれているかもわからない
話は出来ずとも、心は通じている
その想いは通じているようにも思う
だが…それは……本当に、父は望んでくれているだろうか
悩みながらも、教え通り…剣を振るう時は、悩まず、躊躇せず、役目を果たした
悩めば鈍る
躊躇すれば動作が劣る
即座に逆に斬り殺されるのは己と知れ
その教え通り…死に物狂いで剣を振るい続けた
父上は、一人として殺さず、生涯を終えた
その父上の在り方に感銘を受け、そう在りたいと願い、私も最期の瞬間まで貫いた
真月流とは…
新月のような闇しか無い中でも、真(まこと)の道を自らで切り開き、闇の中で光へと転じ、光明を自らの手で作り上げる
血で血を洗う戦場(いくさば)の中で
生き残る為の、帰って来る為に、何を殺してでも帰ってきてくれという願いが籠もった
殺しの剣だった
殺しに対抗するには殺ししか無かった
そうして鎌倉時代から
子々孫々代々に渡るまで脈々と受け継がれてきた剣術
しかし…それを活人剣へ転じさせ、昇華させた
一撃一撃の技は衰えど、敵であれ己であれ死なさず、死地を切り開くことに主点を置いていた
