第6章 また明日
「じゃあ、俺は帰るよ」
その声は静かで、でもどこか芯のある響きだった。
振り返ると、玄関の方へ歩く轟くんの背中が見える。
私は思わず言葉を飲んだ。
『……え、轟くん……?』
彼は立ち止まり、ゆっくり振り返って、私だけに視線を向けた。
その目は、やわらかくて、少しだけ名残惜しそうで。
「元気そうな顔が見れたから……それで十分だ」
微笑むその表情に、また胸の奥がじんと熱くなった。
『……ありがとう』
声にすると、余計に想いが溢れてしまいそうで、
私は小さく、でも確かにそう伝えた。
ほんの短いやりとりだったのに、彼の言葉とその笑顔は、
まるで心の中に小さな光を灯していった。
……でも。
「……は?なんでお前がここにいんだよ」
玄関から聞こえた爆豪くんの声が、空気を一変させる。
「まさかお前、もう手ェ出したとか言わねぇよな!?」
「えっ!?轟が!?ここに!?」と瀬呂の声が上がり、
「……雰囲気……あれ、ちょっと……」と、切島だけが鋭い目で私と轟くんを交互に見つめていた。
――やばい。
心臓が一気に跳ね上がる。
でも轟くんは、そんな言葉にも動じず、
ただ一言だけ。
「じゃあな」
それだけ残して、すっと彼らの間をすり抜けていった。
静かに、でもまっすぐに。
その背中は――ちょっと、かっこよすぎた。
……そして次の瞬間、男子たちが全員ピタッと固まる。
「え、マジでなんでいたの?」
「なにこの空気……甘すぎない?」
「もしかして、俺ら……邪魔だったか……?」
こそこそと、でも明らかにニヤついた顔で私を見てくる。
『ち、ちがうからっ!!ほんとに、たまたまっていうか……その、そんなんじゃなくて!!』
わけもわからず弁解する私の声なんて、もう誰にも届いてなかった。