第24章 想いを、繋ぐために
その問いを投げかけたあとも──
少女は、まっすぐに前を見据えたまま語り始めた。
『……私は5歳の頃、この“想願”という個性のせいで、
両親の命を、目の前で奪われました』
『襲ってきたのは──今も多くの人々を怯えさせている、“あの男”でした』
『両親は、私を守ろうとして……最後まで、手を離しませんでした』
“想願”という個性。
──それが彼女の背負ってきた運命の中心にあった。
けれど、彼女の声は震えなかった。
それどころか、静かに──まるで、すでに昇華された痛みのように、澄んでいた。
『そのとき私は、すべてを失いました』
『信じていたものも、愛してくれた人も、何ひとつ残らなかった』
『けれど……そんな私に、手を伸ばしてくれた人がいました』
その瞬間、彼女の表情がふっとやわらぐ。
ほんの一瞬だけ、それは“愛しい人を想う”顔になった。
『少し年上の、男の子でした』
『泣いていた私に、“そばにいる”って言ってくれた。
名前も知らなかったのに──私は、その言葉に救われたんです』
それは、救いの原点だった。
名も知らぬ“誰か”の優しさが、少女の運命を変えた。
『その後、私は雄英高校に入り、仲間ができました』
『傷を受け止めてくれる先生たちもいて、初めて──自分の居場所を見つけられた気がしました』
『そして、時が経って……あのとき手を差し伸べてくれた男の子が』
『いま、“プロヒーロー”として活躍していることを知りました』
一瞬だけ、彼女は目を伏せた。
けれど、そこにあったのは悲しみではなく、確かな“強さ”だった。
『私は、あの人に救われた命で、いまここに立っています』
『だから、私は信じたい。あの日の私のような子が、この世界にいる限り──』
『“誰かの一言”で、道が変わるかもしれないと』
その声は、どこまでも静かに。
どこまでも力強く、放送の向こう側へ、確かに届いていた。