第6章 また明日
上空から見下ろす訓練施設の中心――
まるで戦場のようだった。
崩れた地面、折れた建材、倒れたヴィランたち。
その真ん中にぽつりと立っていたのは、黒い塊のような化け物だった。
『……なに、あれ……』
あまりにも異質で、禍々しくて。
見ているだけで、呼吸が浅くなる。
巨大なその身体は、肉と金属が不自然に絡み合っていて、
全身のいたるところから管のようなものが伸びていた。
生き物……だけど、生きてるって思いたくない。
そう言いたくなるほど、嫌な気配だった。
けれど――
『……っ!』
視線が、その足元にある人影を捉える。
血に濡れた地面に膝をついて、荒く呼吸しているのは……
相澤先生だった。
『先生……!?』
服は裂け、右腕は見るからに折れていて、
体中に無数の傷が刻まれていた。
その姿が、かつて見た家族の“倒れていた背中”と重なる。
何もできなかった、あのときの記憶と――
ぎゅうっと胸の奥が締めつけられた。
その瞬間だった。
化け物が、ぶよぶよとした腕を持ち上げて、
先生の頭を狙って叩きつけようとしていた。
『……っやめてぇえええええっ!!!』
咄嗟に風を解き放つ。
蒼い風の刃がいくつも巻き上がり、轟音とともに突風が化け物の腕を切り裂いた。
先生のすぐそばに着地し、その身体をしっかりと抱き寄せる。
『先生、大丈夫……!?』
ぐったりしたその身体からは、かすかに息づかいが感じられた。
(……間に合った……)
ほんの一瞬、そう安堵しかけたその時。
「……ふん。なんだよお前……」
背後から、低く、冷たい声が降ってくる。
振り返ると、そこにはまた別の男が立っていた。
乱れた白髪に、左右の瞳がそれぞれ違う色をしている。
その目が、まっすぐに私を射抜いていた。
「面白ぇじゃねぇか。なぁ、もっと騒がしくしてくれよ」
ニヤリと口元を歪めながら、獣のような視線でこちらを見てくる。
『……ふざけるな……』
言葉にできないほどの怒りが、胸の奥でじくじくと燃えはじめる。
(また……また誰かが壊されていくのを、黙って見てるなんて、絶対に嫌だ)
立ち上がって、相澤先生の前に出る。
ふわりと風が巻き、私の背を押してくれる気がした。
『負けない……あんたなんかに』
『誰も……もう誰にも、傷つけさせない――!!』