第16章 監視された想い
「……最近あいつ、学校に顔出してないんすよね」
何気ないふうを装って相澤先生に聞いたら、
返ってきたのは、予想以上に重い言葉だった。
「インターンに出ると聞いたが、場所までは知らん。
ただ……一度、訪問者が来た。公安の人間だった」
……やっぱり、そういうことか。
俺の中でぼんやりしてた不安が、ひとつ輪郭を持った。
公安──
しかも、“個性戦略”に関わる連中。
ただの事務員じゃない。
現場と、人間と、“力”に近い立場のやつら。
すぐに動いた。
相手の顔だけを手がかりに、自分のネットワークを使って調べ上げた。
名前は表に出てこない。
けど、そこに確かに“いた”。
公安直属のヒーロー管理特別課。
その中でも、特殊個性対応部門──。
あの子は、囲われたんだ。
……よりによって、公安に。
俺はその日のうちに接触の準備を整えた。
選んだのは公安ビル裏の立体駐車場、死角。
カメラも少なく、人も通らない。
見つかったところで言い逃れの効く、でも“圧”は伝わる場所。
──警告の意味も、ある。
時間通りに現れた男は、無駄がなかった。
黒髪に地味なスーツ、表情もない。
なのに、一言も発さないうちから“嫌な空気”だけが漂ってる。
「──用件は?」
俺より先に口を開いた声は、
冷たくて、機械みたいで……ムカつくほど感情がなかった。
「……あんた、彼女に会ったんですよね」
「インターン前。学校で」
自分でも気づく。
声の奥に、焦りがにじんでた。
こういう時は本当は、何も出しちゃいけないのに。
でも──あいつのことになると、ダメだ。
「どこにいるんです? 今」
男は一瞬だけ目を細めたあと、無機質な声で返した。
「国家に従い、任務に就いている。それだけだ
君が知る必要はない。……いや、知る資格がない」
……資格、ね。
こっちの目が、わずかに伏せられた。
笑ったフリをしながら、内側では舌を噛みそうになってた。
「……あの子、一度さらわれたことがあるんですよ
その時に決めたんです。何があっても、俺が守るって
でも──また、俺は呼ばれてない」
「公安の管理下だ。君の感情は無関係だ
彼女の命に関わる判断はこちらが下す。……問題があるか?」
一歩、踏み出した。
笑みは消さずに、でもその裏の感情は完全に剥き出しだった。