第14章 仮免の向こう側【R18】
寝息が落ちる部屋の中、
隣で小さく丸まった背中が、
静かに上下している。
さっきまで泣きそうな声で俺の名前呼んでたくせに、
今は子どもみたいにすうすう眠ってやがる。
枕元の小さなスタンドライトだけが、
その柔らかい頬をぼんやり照らしていて、
熱の名残で少し赤い首筋の跡が
俺の胸を変にあったかくする。
「……可愛いんだよなぁ……。」
かすれた声が、夜の空気に吸い込まれる。
目を細めて、その指先にそっと視線を落とす。
眠ったまま握りしめた右手の指を、
優しくほどいて開かせた。
ポケットから、小さな赤い石のついた指輪を取り出す。
俺がずっとつけてるピアスと同じ色。
何度も買おうとして、
でも、渡す理由を見つけられなかった。
けど――もう我慢する気もない。
「……俺だけのだろ。」
指先が触れただけで、寝息が少し乱れて、
でも目を覚まさずに、また落ち着いた。
そっと、右手の薬指に指輪を滑らせる。
サイズは、何度も盗み見て測ったから、ぴったりだ。
「……卒業するまでの約束な。」
声に出した瞬間、
胸の奥が、ひどく熱くなる。
好きとか、付き合おうとか――
言葉で繋ぐのが全部馬鹿みたいで、
それでもちゃんと繋いでおきたかった。
「……逃げんなよ。」
髪を梳いて、額にそっと口づける。
この指輪の意味を言うのは、まだ先でいい。
卒業したら、すぐにでも奪いに行く。
名前なんか何度だって呼ばせて、
全部、俺のものにしてやる。
そうやって睨む顔も、泣く顔も、笑う声も――
全部、絶対に離さない。
指輪の赤い石が、小さく光を弾いて、
眠る横顔に小さな影を落とした。