第5章 忘れられない人
千「……そういえばさ。黒田さん、トレーナールームの鍵持ってたよな。あの鍵って、ロッカー室にも入れるんだっけ?」
潔「たしか、清掃の人とかスタッフが出入りできる共用のやつ。アンリさんも持ってるって言ってた。……なんで?」
千「いや……別に」
潔(まさか……)
口には出せない。まだ“疑ってる”と言うには、証拠が薄すぎる。
でも、胸の奥に引っかかった小さな棘が、確かにある。
潔「……とりあえず、しばらくロッカーの中、軽く写真撮って残しておこうぜ」
千「うん。細かい変化、記録に残せば言い逃れできないしな」
潔は頷きながらも、胸のうちで思う。
──ここにいる“誰か”が、自分たちを試してる。
その“誰か”の正体を、まだ名指しはできない。
だが、視線の先にちらつく“ある人物の存在”が、徐々に意識の中で浮上しはじめていた。