第5章 忘れられない人
穏やかに進んでいくやり取りの中で、ひとり、声を出せずにいた。
──そして目が合う。
(……っ……)
息が詰まり、肩がわずかに跳ねた。心臓の音が、どこか遠くで鳴っているような感覚。
ほんの一瞬。その一瞬で、かつて封じ込めた記憶の断片が、薄氷を割るように浮かび上がる。
──白い部屋、締め切られた窓、そして……笑っていた声。
(……やめて……)
優人の視線は、すぐに逸らされた。
何事もなかったかのように、別の選手へと向き直る。
その笑顔は、完璧な“トレーナーの顔”。
──だが、凛の目にはそれが“仮面”にしか見えなかった。
凛(今……あいつを見たあとだけ、ほんの一瞬だけ目が冷たくなってなかったか…?)