第7章 「残るのは、君だけ」
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は必死に後ずさりながらも、腰の内側に隠し持っていた小太刀の柄を握りしめた。
指先が冷たく、汗と震えでうまく力が入らない。
――怖い。それでも、ただ怯えていたら、二度と自分を取り戻せない。
歯を食いしばり、柄を握る手に必死で力を込めた。
指先が汗で滑りそうになるのを必死にこらえ、一気に引き抜く。
銀の刃が蛍光灯の薄明かりを反射し、鋭く光った。
「……ッ!」
刃先を構え、男の胴を狙って踏み込む。
一度、二度、渾身の突きを繰り出すが――
「おっと」
男は身をひるがえし、刃を紙一重で避けた。
床を擦る音とともに、逆に手首をつかまれ、力任せに捻り上げられる。
「なんだよ……そんなもん、隠し持ってたのかよ」
ぐっと押さえ込まれた腕が悲鳴を上げ、握力が抜ける。
小太刀が床に落ち、金属音が鈍く響いた。
「っ――!」
刃を拾おうと身を屈めた瞬間、男の膝が腹にめり込み、息が詰まる。
続けざまに拳が頬を打ち抜いた。
ゴッ――!
衝撃で視界が揺れ、頬の奥に熱が広がった。
殴られる――そんな経験は、これまで一度もなかった。
痛みよりも、現実感のない衝撃に一瞬呆然としてしまう。
「……大人しくしてろよ」
吐き捨てるような声とともに、男の影が覆いかぶさる。
荒い息が頬にかかり、次の瞬間、唇を無理やり塞がれた。
嫌悪感が、胃の底からせり上がってくる。
五条と交わしたキスとはまるで違う――温もりも優しさもなく、ただ押しつけられる唇。
殴られたときに切った口の中から、じわりと血の味が広がり、それがさらに吐き気を誘った。
「っ……やめ……っ!」
必死にもがくが、腕も肩も、まるで鉄の枷のように押さえつけられている。
どれだけ力を込めても、びくともしない。
「安心しろ……気持ちよくしてやるから」
耳元にかかる声は、氷のように冷たくて、ねっとりとした悪意を含んでいた。
その手が、じわじわと腰元に伸び――ジャージの裾にかかる。
布地がくしゃりと鳴り、指が潜り込もうとする――その瞬間。