第1章 もう嫌なんです。
ハハハ、と乾いた笑いが漏れた。
覚醒した瞬間―――まるで走馬灯の様にアレクサンドラ・シーカヴィルタの人生が浮かんだ。
私は窮地にいる。
私は断罪されるのだ。
分かっていても逃げなかったのが、アレクサンドラの最後の意地だった。
婚約者の私ではなく、ヘッリをエスコートしたヴェリ王太子殿下が広間で待ち構えている。
ヘッリを愛する取り巻き達を侍らして―――!
今宵のエスコートを頼み、今この部屋の戸の前で待っている幼馴染のアスコアッテすらヘッリに心奪われていた。
―――私は糾弾される。
確かにヘッリに対した私は優しかったとは言い難かった。
でも、そうだろう?幼少の頃から結ばれる事を夢見ていたヴェリ王太子殿下を奪われ周りにいた男性達を奪われ、心の拠り所だった筈の幼馴染すら奪われ―――、平常心でいられる訳ない。
恋心を踏みにじられ、怨嗟を胸に、それでも最後の虚勢で今日のプロムに望んだアレクサンドラの人生と、幸せな結婚を夢見ていた私―――と重なる。