第16章 ドクターはトターに夏服をプレゼントしたい
そうして鬱蒼と生い茂る森を歩き続けていると、ふっと目の前が明るくなった。森のど真ん中でなぜか開けた空間があり、そこに陽射しが差し込んでいたのだ。
「これだ」
私は手記を眺めながら、そっくりそのままの植物の絵と目の前の花を交互に観察する。色味はスミレのようだったが、高さはアイリスくらいあり、花の形はスイセンのようだった。私はそれを根から引き抜き、保護袋へ入れた。
「目的はその花なのか?」
トターが訊ねた。私は嬉しくなって花の説明をしようと振り向くと、丁度トターにも空からの陽射しが注ぎ込み、新しく着て貰った彼の衣装が青白く光り輝いた。
私はその姿を見て一瞬言葉を失くし、不審に思ったトターがどうしたのかと顔を歪める。私はハッとして視線を逸らした。
「すまない……トターとその衣装が、あまりにも美しく見えて」
するとトターがふっと顔の筋肉を緩め、それから小さく笑った。ドクターにそう思ってもらえて光栄だ、と言って。
「ドクターに服を買って貰った甲斐があったな」
そうか、そうなのか。私は自分で一人納得してつい笑みを零す。私は立ち上がった。
「帰ろう」
「ああ」
私はトターにそう言って帰路を辿った。ロドスに戻るとすぐにアーミヤがやって来てこってり怒られてしまったが。
「外に出る時は私に教えて下さいって言いましたよね!」
「すまない、アーミヤ……」
「護衛の任務に問題はなかった」
「あ、トターさんがいらっしゃったんですね……?」
トターがいたことで半分くらいはお説教が減った……とは思う。