第6章 黒天使の顔
「ねぇ」
「わっ」
アレーンの顔が急に近づいてきて私は声を上げてしまう。相変わらず綺麗な顔だ。いつも何を考えているか分からない眼差しも、薄い肌も、全てを彼だと示しているみたいだ。黒い天使ってきっと、天使から堕ちたのではなく、天使より美しさを得た彼のことなのだと思う。
と思案している私の目の前で、アレーンはしばらく微動だにしなかった。お互い男とはいえ、こうも長く見つめられるとなんだか恥ずかしいのだが……。
「へ……?」
その時突然、アレーンが私の頬を撫でた。え、なんで? 理解が追いつかないでいる私に一つ、アレーンは笑って、
「変な顔」
と言うのだ。それからアレーンはようやく私から離れて更にこう付け足した。
「さっきの仕返しだから」
「仕返し……?」
なんの仕返しなのか分からないままでいる私を残し、アレーンは執務室を出て行った。アレーンはやはり、謎だらけのオペレーターだ。
見るとイースチナが意味深そうにこちらに目を上げていた。もしかして、事の真相をイースチナは知っている……?
「アレーンは、なんの仕返しをしたんだろうか……」
問いかけのように私は呟いた。イースチナは一度本に視線を落とし、眼鏡をクイッと上げた。
「先程、ドクターは寝惚けてアレーンさんの頬を撫でていました。その仕返しかと思われます」
「え、アレーンのほっぺたを?!」
え? え??
私は眠気を吹き飛ばして執務室を飛び出した。全力で謝らなきゃ! てか全力で頭撫でた方がいいのか?! 私は完全に回復していない理性で意味の分からないことをグルグルと考えた。
……しばらくアレーンと会うことはなかった。
おしまい