第10章 悪夢の棲む家
「暗示実験とやらの結果は?」
「動きなしです」
「位置センサー、振動計、傾斜計。録画記録にもなんの異常も認められませんでした」
「つまり……?」
「翠さんたちは犯人じゃないって事ですね」
麻衣の言葉に広田は思わずホッとした。
だが直ぐにある事に気がついて眉を上げる。
「……いや、待て。翠さんたちが違うのならほかに犯人がいるって事じゃないか。侵入者はいないはずだろう?それなら誰が──」
ナルは無言で、双子は思わず広田から視線を逸らす。
「……この家で起きている現象の犯人は人間ではないと言いたいのか?」
その言葉に双子は無言だった。
(人間ではない何かが──?)
昼近くになり、双子とナルとリンは仮眠することに。
双子は翠の部屋で睡眠を取り、ナルは居間のソファで、リンはベースでとそれぞれの場所で仮眠していた。
一方、広田はダイニングにいた。
眉を寄せながら自分が咄嗟に思ってしまった事に悩む。
『この家で起きている現象の犯人は人間ではないと──』
咄嗟に自分が言ってしまった言葉である。
(とっさとはいえ、自分からあんな事を言うなんて……。実験結果なんぞ、あいつらの自己申告に過ぎないじゃないか。そもそも暗示自体失敗したのかもしれない。連中に感化されないように、気をひきしめておかないと)
なんて思っているとインターホンが鳴った。
広田はダイニングから出ると、ナルを起こさないようにと電話機型のインターホンを手に取って小声で喋る。
「はい」
「隣の笹倉ですが」
玄関へと向かって扉を開ければ、笹倉夫人が立っていた。
「あら。こんにちは、広田さんだったかしら。奥さんは?」
「買い物に出ていますが──」
「あらぁ……じゃ、中で待たせてもらおうかしらね」
笹倉夫人は廣田を押しのけて中に入ろうとした。
「えっ。あの、待ってください困ります。ご用でしたらおばさんに伝えておきますから」
慌てて広田は笹倉夫人を中に入れないように止める。
「そうだ。あなた、お腹はすいてない?なんだったらお台所を借りて軽く何か作ってあげましょうか?」
「いや、あの──」
妙に馴れ馴れしくて広田は困惑してしまう。
そしてふと、翠の言葉を思い出した。