第10章 悪夢の棲む家
「いいんですよ。どんな事でも……気のせいだと思っても言ってください。調べます。ただ我々はプロだという事を信じてください。異常だと思われたら徹底的に調べます。そうでなければそのように申し上げます。そのときにはその言葉を信頼していただきたいのです」
ナルの言葉に阿川夫人は何度か瞬きを繰り返した。
「……そう──そうね……わかりました」
どこか安堵しているような様子。
そんな母に翠も何処か安堵した様子を見せていたが、広田は何処か納得出来ないような、なんとも言えないような表情を浮かべているのだった。
その後、阿川夫人からの異常を訴えがある度にナルが調べにいった。
そして彼女を落ち着かせるようにしていたのであった。
「あ、おかえりー」
阿川夫人の数回目の異常の訴え。
ナルは彼女を落ち着かせる為に出ていて、ベースに戻ってきた。
「……お母さん落ち着いた?」
「ああ」
「今、午前三時だから……」
「四時間の間に、お母さんの異常の訴えが六回か……」
「あれじゃ、お母さんも翠さんも今までほとんど眠れてないんじゃない?どうする?」
「少し安心させたほうがいいだろうな……偽薬を処方してみようか」
「ぎやく?」
「ギヤク?って?」
ナルの言葉に双子が揃って首を傾げる。
無知な二人にナルは眉を寄せて呆れたように溜息を吐き出す。
「無知。『まがいものの薬』」
「まさかとうとう詐欺行為……」
「そんな意味じゃない。知らないのなら黙ってろ」
言い方が悪くないかと双子はむくれる。
そんな双子を見ながらも、リンがナルへと声をかけた。
「──どうします」
「派手なほうがいいだろうな。できるか?」
「わたしは適任ではないと思いますが」
「そうだな……結衣。朝一番にぼーさんに再度連絡を取ってくれ」
「いいけど……ぼーさんなんかが薬になるの?」
「あの年代なら仏教か神道の儀式のほうが巫蠱道のものより馴染み深いだろう」
「あ、なるほど。心霊現象とかは置いておいて、取り敢えずお母さんに安心してもらう為にぼーさんをお祓いを頼むのね」
「それが『薬』って事かあ」
なんて会話をしていれば居間の方から電話が鳴るのが聞こえた。
その音に驚いて双子は肩を跳ねさせてしまう。