第8章 呪いの家
だがナルは無視した。
そっぽを向いて、手元にある資料を眺めているのだ。
そんな態度に思わずカチンとくる。
「感謝してほしいわねぇ。アタシが過去の恨みも忘れて、助けてあげたんですからね」
相変わらずの綾子。
ナルから嫌味が飛び出しそうだと思っていたが、ナルはただ『それはどうも』と言うだけ。
だがその態度がなんとも苛立つものであると思っていれば、安原さんが手招きしてきた。
「機嫌が最低」
改めてナルを見る。
まるでブリザードのようなものが吹き荒れているような気がするぐらい、機嫌が悪そうだった。
憑依されたからだろうか。
なんて思いながら、子供かよと溜息を吐き出してしまう。
「……えーと、なんだ。どうも祟りの原因は六部の霊じゃないみたいなんだな」
「『おこぶさま』だろう」
さらりと言ったナルにあたしたちは驚いた。
「……どっ、どーしてわかるの!?」
「ナル、なんでわかったの!?」
「お前たちとは頭のデキが違う」
苛立ちを覚える。
いくら不機嫌だからと言って、あたしたちにそこまで言わなくてもよくないかと。
「あのねぇ……!」
麻衣が怒鳴ろうとした時、安原さんが叫んだ。
「──ありました!」
何が『ありました』なんだろう。
思わずナルへの怒りも忘れた首を傾げてしまう。
「内容は」
「えーと……『氏神 祟りを なすこと』とあって。とある神社の御神体である『御小法師(おこぼし)さま』は『えびす』神だとあるから『おこぶさま』のことでしょうね。『御小法師さま』を祀って以来、暴風雨や高波が絶えたとあります。それでたいそう崇拝されたが、村人やイワイや祀ることを怠るとたちまち災いをなす。とくにイワイ一家は祟りによって多くの死人をだしたと」
「松崎さん。イワイというのはなんですか?」
「いわい……?ああ、祝(はわり)のことね。神主みたいなものだけど」
話がついていけない。
あたしと麻衣は顔を見合せてから、ナルの嫌味が飛ぶのを覚悟してたずねることに。
「あのー……」
「どーいう……?」
想像通り、ナルは嫌味は言わなかったが呆れたような眼差しをこちらに向けてくる。
そんな目を向けられたって、分からないものは分からないのだと言いたいが辞めておいた。
これ以上嫌な目で見られたくは無い。