第4章 私の恋 高専夏油
「硝子はもう選んで自分の部屋で着替えるって持っていった。オマエも好きなの持っていけよ。」
「えっ、ホントにいいんですか?」
「おー。帯とかも勝手に選べばいい。」
そういって、五条先輩は自分のベッドにどかっと座った。
わざわざ実家に連絡をして持ってきてもらったんだ。私と硝子先輩のために。
「どうして…?」
「あ?みんなと同じのほうがたのしーじゃん。」
ただそれだけ。
と、五条先輩はベッド横の雑誌に手を伸ばして読み始めた。
夏休み特集と書かれた雑誌をぼーっと読んでる五条先輩は、本当にただみんなと夏祭りを楽しむためにしてくれたんだ。
「先輩いい男っすね。」
「今気付いた?惚れんなよ。」
「あ、それはないですね。」
きっぱり言うと、五条先輩はけっと私を睨みつけた。
「ちなみに。」
雑誌をぽいっと置いて、五条先輩はにやりとわらった。
「傑は濃紺の浴衣だ。」
「……ふーん。」
「同じ色より対照的な色の方が横歩きやすい。」
「……。」
「真っ赤じゃん。わっかりやす。」
「う、うるさいですね!別に…と、隣歩かないですよ!」
「へー。」
にやにや笑う五条先輩がむかついたけど、夏油先輩のことをよく知るのもこの人なのだ。
「…別に隣は歩かないですけど。この色とかどうですか?」
「いや、それよりこっちじゃね?」
「模様がしつこくないですか?」
「オマエの顔ぱっとしねぇから派手な方がいいだろ。」
「あー。確かに。これは?」
なんだかんだで、相談に乗ってくれる五条先輩は意外と面倒見がよかった。
「ちょっと袖通してみろよ。」
「はい。」
「お、いいじゃん。帯は濃い方がいいな。これとか。」
「そういえば、浴衣着れないです。」
「はぁ?マジかよ。どうやって生きてきたんだよ。」
「えー?浴衣着ることなかったですもん。五条先輩よくきたんですか?」
「実家だと普通。」
黒に近い紺の帯を片手に五条先輩はさらりと言った。
着物を着て過ごすくらいの家…ということなのだろう。
私は改めて五条家の凄さを痛感した。