第10章 人形
心配してくれる人がいる。
泣いてくれる人がいる。
そんな当たり前のような存在がいるという事が、西崎美優にとっては当たり前ではなかった。
だからこそ。
「それが、どんなに嬉しいか……。……わかってくれる?」
「……っ」
「わか、んな……」
「私はこのままじゃいられない。私が生きていることは不自然な事だし、私が生きていることで私に引き寄せられて呪いが集まる。そうすれば私は大切な人を傷つけてしまう。そんなの私は耐えれらない。大好きだから。大切だから。私、みんなに笑っててほしいんだ」
「……そんなの、エゴじゃん……」
「そう、私のエゴ。そして、ちょっとした呪い、かな」
「……なに、それ」
そろそろお別れの時間だ。
私は握っていた鍵を握り直し、彼女の肩を叩く。
西崎美優はずっと笑ったままで。
「私、みんなに会えて幸せだった。世界中で一番」
「うん、君は幸せ者だ。こんなに愛されて。もう、充分だね」
「はい」
「まって!!まって……!!」
伸ばされた手は空を切る。
「"施錠"」
鍵を回せば、彼女は静かに動きを止める。
人間の形をしていた西崎美優の時間は止まり、"元の形"へと戻る。
骨と皮しか残らない西崎美優の肉体に、二人は悲鳴を上げそうになった。
が、咄嗟に口を抑える。
「叫んでも平気だよ。今この場所は私と君達しかいないから」
この場所に来た時、帳を張っていた。
西崎美優とその友人のみが出入りできる帳。
それを説明するのは面倒だし、言わなくてもいい事だから言わないけど。