第18章 ムカツク【蜂楽視点】 ✢
「蜜浦先輩を泣かせるお前が“俺の夢”…か。
大切にしてるようには、到底思えねぇんだよ。」
黙れ、メガネ。
今はお前のごもっともな正論なんて聞きたくない。
早くその生意気な口閉じて……俺に殴られろよ。
「この間も首に噛み跡付けて困らせてたっけな。
今だって先輩が悲しむこと、何かしたんだろ?
お前が気持ちいいコトを、先輩が喜ぶとでも思ってんのか?脳筋ヘンタイヤロー。」
今日のは、バカ女に起こされたただの事故じゃん。
夢ちゃんから聞かされたような口ぶりで、言うな。
「号泣してる好きな人が目の前にいたとして
蜂楽……お前ならどうしてた?」
俺が、夢ちゃんのコト泣かせた。
で?
だからコイツのキスで慰めてもらってたワケですか?
暴論もいいとこっしょ。
「僕は、勝てない勝負をするほど愚かじゃない。
前はお前の独創性に勝てないと思ったから素直に引いた。
でも、今のお前になら勝てそうだと思った。だから先輩にキスした。」
「あ?俺に勝てるとか、マジで思ってんの…?
尻尾巻いて逃げたクソザコの分際でさぁ。」
胸ぐらを更に強く掴む。
シャツがギリッと音を立てて、弾け飛んだボタンが床に転がった。
「……ふたりとも、お願いだから、止めてよ……」
夢ちゃんが、震えた声で言った。
目元と鼻先を赤くして、いっぱい泣いてた顔。
華奢な腕に生徒会の腕章を巻いて……
それが蝶野(コイツ)のとおんなじで……
……あー、ムカツク……。
「いつでも先輩を奪ってやるよ。せいぜい出し抜かれないように、ビビって待っとけよ。」
メガネは制服を整えて、生徒会室を出ていった。
俺は……俺の中で燻るこの怒りの感情が……
蝉川の時とは別の、初めてのモノだって気付いた。