第6章 ご主人様のお気に召すまま【後編】
焦り一つの欠片さえ見せずに余裕そうな顔をしながら、その実、誰よりも努力して術式を極め、死ぬ気で強く在ろうとする。
子供のようにおどけてみせながら、膨大なストレスを抱えていることも知っている。
過去の辛い出来事も硝子から聞いていた。
周りに自分の弱いところを見せたくないと彼が望むなら、私は無理に暴いたりはしないし、見て見ぬふりをする。
でも、私を信頼して、たまに寄り掛かってくれるなら全力で応えたい。
こういう戯れだって、どこまで私が応じるか、彼は無意識に確かめているのだろう。
私が言う「愛してる」と、悟の言う「愛してる」は同じ重さなのか、答え合わせをしているのではないだろうか。
特定の誰かに深入りすると、私たち呪術師の世界は辛いことが多い。
それでも悟は私を選んでくれた。
「……そうだなぁ、私がシワシワのお婆ちゃんになっても、悟がヨボヨボのお爺ちゃんになっても、縁側とかでこうやって私が膝枕してさ……その時は耳かきでもしてあげる」
穏やかな未来を思い浮かべて話しながら私が笑うと、悟が開きかけた唇を閉じて、キュッと口を真一文字に結ぶ。
改めてこれからも一緒に居たいと伝えるのはちょっと恥ずかしいので、私は彼の目元を優しく手で覆ってから囁く。
「だから一緒に年を取ってよね、悟」
愛してる、なんて綺麗な言葉は、私たちの関係には似合わない。
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