第2章 【妊娠、出産編】
〜妊娠6ヶ月〜
「……廉、何やってんの?」
恵まれた皮膚をお持ちなおかげで
スキンケアに無頓着な廉がひと足お先に寝室に入って
真剣な顔をしてクリームを塗ってるもんだから、
思わず訊いてみる。
「あぁ、これな?病院から勧められたんよ」
「…ふーん?」
廉が塗り拡げてるクリームのチューブを手にとって
説明書きに目を通す。
「妊娠線の予防…?」
「そうなんよ。俺、元々細いとこからの双子やん?
皮膚の伸び率でいったらまあまあの振れ幅になる
から必要なんやって。」
「確かに、オレが廉の皮膚だったらびっくりするかも
これ以上伸びませーん!ってなりそうだもんね?」
「そう!!まさに今日その心配をされたわけよ!
で、妊娠線っちゅーのができんように
保湿を勧められて塗ってみてるんやけど、
何か、ベタベタしてんの、慣れん。
せっかく風呂入ったのに
指の間にもクリーム入ってきてキモい。」
「ふぅーん?じゃあ、オレ塗っていい?」
「えぇよ?」
「よいしょっと」
なんか、普通に向かい合って塗ってくれるって
思っとったのにヘッドボードと俺の隙間に
入りこんで来た海人に後ろから抱きかかえられて
ちょっとだけ、前に押しやられる。
海人の胸に頭を預けたついでに見上げると
視線に気付いた海人が「なぁに?」って微笑んで
長いまつ毛に縁取られた大きな目に俺を映す。
この眼に映るのは
今だけは、俺だけ…。
急に照れ臭くなった俺は慌てて視線を逸らす。
「海人さ、陰キャの人に謝った方がいいと思う。」
「…なに?突然」
海人が笑いながら俺の腹にクリームを塗り広げる。
なんか、いろんな意味でくすぐったい…。
「や、なんか…自分はそっち側やとか言うやん」
「言うっていうか…ホントにそういう面があるって
思うもん」
「けど、ほんまのそっち側の人から見たら
ざけんなよ、やと思うわ。甘え上手っちゅうか…
人の懐に入んの、上手いし」
「オレに対して好意的な人とは…そうかも。
でもフラットな状態の人とは全然無理。
新しく友だち作んのとか…めっちゃ苦手だよ?
廉みたいに会話、上手くないもん、」
「んー…友だちの作り方が違うからな。
俺は逆に…海人みたいには、できんから」
なんやろ…塗られとるせいか、心も解れて
余計なこと口走っちゃいそう…