第3章 しばらくぶりの
朝起きると電話は切れていて、京治から「行ってきます」のメッセージが入っていた。
昨日のこともあるし、気温のせいで多少汗ばんでいたこともあって、軽くシャワーを浴びてからいつも通り準備を始める。
学校に着くと、毎朝行くお決まりの場所から外を眺める。
クラス前にある廊下を挟んだ窓際は、登校してくる生徒たちが見えて少しだけ楽しい。特にお目当ての人がいるわけではないけれど、これがクロの好きな"人間観察"というやつだろう。
だいたいいつも、同じ時間に同じ人たちが登校してくる。みんなそれぞれ、ルーティンというものがあるのだろう。それはもちろん、"あの人"も同じ。
「おはよーさん」
「…クロ」
今日もいつもと同じ変な寝癖。挨拶。
一緒に来た夜久くんとも挨拶をし、夜久くんは先に教室へ入って行った。
「昨日は誰と電話?暇だと思ったから誘ったんですケド〜」
ちょっと凹んだ、と付け加えるクロ。
今日もほんのり香ってくる、制汗剤の匂い。
「どした?眠い?」
黙り込む私を不思議そうに見つめるクロ。
「クロ、あのね…私彼氏がいるの」
「は?」
「だからごめん…今までみたいに、もう関われない…から、帰りも一緒に行けない」
クロの顔を見ると、いつもより大きく開いた目と視線が合う。
気まずさから咄嗟に逸らすと、お互い無言の時間が過ぎる。
「…前に、今は恋愛に興味ないって言ってたよな。いつできたの」
「クロと初めて話した時よりも、ずっと前…」
「俺お前と初めて話したの、2年の時なんだけど」
クロとは3年になって初めて同じクラスになった。
けど私も覚えてる。2年の時、先生から頼まれてクロのクラスに授業変更の報告をしにいった。たまたま近くにいたのがクロで、みんなに伝えるよう頼んだんだっけ。
たった数十秒の会話なのに、クロも覚えてたんだね。
「なんで黙ってたの?」
「目立ちたくなくて…」
「同じ学校の奴ってこと?」
「違うけど…」
違うけど、杜中出身の人何人かいるし…
別に京治の名前を出さなきゃ良いだけなんだろうけど、誰にでも彼氏の話をしたいというわけでもない。
それに、京治の憧れていた梟谷のバレー部がうちと関係が深いということを知ってから、些細な噂が京治に迷惑をかけるかもしれないと、余計に気をつけるようになった。