第11章 忍びの地図【アズカバンの囚人】
ハリーはリーマスが『ヴォルデモート卿』の名前を口にしたことに驚いていた。
だがそんな彼を他所にリーマスは話を続ける。
「アリアネにも実は同じことを聞かれて、同じ言葉を返したんだ。だが、たしかに、私の思い違いだった。しかし、あの職員室でヴォルデモート卿の姿が現れるのはよくないと思った。みんなが恐怖にかられるだろうからね」
「最初はたしかにヴォルデモートを思い浮かべました。でも僕、僕は吸魂鬼のことを思い出したんです」
「そうか。そうなのか。いや……感心したよ。そして驚いたよ。アリアネと同じことを答えるからね」
リーマスの言葉にハリーは目を見開かせながら、隣に腰掛けていたアリアネを見た。
彼女と同じことを答えたということは、彼女も吸魂鬼を恐れていることだから。
「だって、怖かったじゃない。吸魂鬼」
「そうだね……怖かった」
「それは、君たちかがもっとも恐れているものが、恐怖そのものだということなんだ。ハリー、アリアネ、とても賢明なことだよ」
何故か褒められたような気がして、アリアネは首を傾げていたし、ハリーはなんて言えばいいのかと悩んでいた。
「それじゃ、ハリー。私が、君にはまね妖怪と戦う能力がないと思った、そんなふうに考えていたのかい?」
「あの……はい。ルーピン先生。あの、吸魂鬼のことですが……」
ハリーの言葉は、ドアをノックする音で途切れた。
「どうぞ」
リーマスが声をかければドアがゆっくりと開かれた。
中に入ってきたのはスネイプであり、手にしているのは微かに煙が上がっているゴブレット。
彼はハリーとアリアネをみつけると、足を止めてから目を細めた。
「ああ、セブルス。どうもありがとう。このデスクに置いていってくれないか?」
言われた通りスネイプはゴブレットを置いてから、リーマスとハリー、そしてアリアネへと視線を走らせる。
「ちょうどいまハリーとアリアネに水魔(グリンデロー)を見せていたところだ」
「それは結構。ルーピン、すぐ飲みたまえ」
「はい、はい。そうします」
「ひと鍋分煎じた。もっと必要とあらば」
「たぶん、明日また少し飲まないと。セブルス、ありがとう」
「礼には及ばん」
2人の会話を聞いていたアリアネは、ゴブレットへと視線を向けていた。