第1章 優しい人
私が見上げていると、その人は突然スッと片膝をついてしゃがみ込む。
私と目線を合わせると、こう聞いてきた。
「お前はさっきから何をしている」
何をしていると聞かれても…
「小豆…拾ってます…」
見たら分かるでしょうよ…。
見たまんまを答えると、その人は「そうか」とだけ呟き、今度は辺りを見渡し始める。
すると、小豆の乗った一輪車が目に留まったのか今度はそちらをじっと見つめていた。
…説明が欲しいのかな?
という結論に辿り着いた。
「その一輪車に小豆を乗せて運んでたんですけど、倒してしまって。その拍子に袋が破けて小豆が溢れたんです」
簡単に説明すると「ふ〜ん」みたいな顔をした。
そして顎に手を添えて何か考えはじめる。
暫く見ていると、何を思ったかその人は小豆を拾い始めた。
…何なんだこの人…
「あの、…何してるんですか?」
「見れば分かるだろう。小豆を拾っている」
「それは分かりますけど…。なんでそん「ここは人通りが多い」
なんでそんな事するのか…と、私が言い終わる前に、その人は言葉を被せてきた。
「こんなに広げていたら迷惑だ。さっさと片付けるぞ」
この人は何も間違ってはいない。
けれど、冷たい言い方が私の心を抉った。
「迷惑」「さっさと」
棘みたいに私の心に突き刺さる。
ここまで頑張ったのに、お前はダメだと言われているみたいで、とても悲しかった。
「……はい」
もう泣きそうだった。
でも泣いたらダメだと自分に言い聞かせて、溢れそうな涙はゴシゴシと拭って、言われた通りまた小豆を拾い始めた。
ふと、その人の動きが止まったので、なんだろう?と顔を上げると、何故かこちらをじっと見つめている。
綺麗な色だなぁ…
青く澄んだ瞳に吸い込まれてしまいそう
思わず場違いな事を考えていると、その人がおもむろに口を開く。
「すまなかった」
「……へ?」
脈絡が無さすぎて変な返事をしてしまった。
何の事を言っているのかこの人は。