第5章 日中米/逆ハー? 血ヲ奉納セヨ
「う、嘘でしょ……!?」
目の前の鳥居が、早送りのように灰色へ朽ちていく。
空は山吹色、黄緑色、桃色、といった奇怪な色に彩られていく。
紛れもなく、異界に入り込んでいく前兆だった。
「そんな、“ここ”も――」
「なにかお困りですか、お嬢さん?」
「!?」
突然声をかけられ、ハッと振り向く。
いつのまにか、鳥居の中央に人が立っていた。
昔の軍服のような白い服装に、長い蒲葡色のマントをしている。
それから、服と同じくらい白い肌に、血が滲んだような真っ赤な瞳。
目を奪われるほど妖艶な瞳から、はっきりと、彼がヒトではないことがわかった。
「い、いえ……とと特になにも――ひいっ!」
「ふふ、そんな怯えずとも。食事はちょうど先ほど終えてきたばかりですから」
不意に背中から囁かれ、文字どおり飛び上がる。
いつの間に移動してきたんだ!? ていうかこいつを撒けるのかっ!?
「そ、そうですか、ハハ」
「ですが――」
わずかに笑みを形作る唇の隙間から、明らかに、人ならざる牙のようなものが、こちらを覗いていた。
瞬間、空が彼の瞳のように真っ赤に染めあげられる。
さっきまでアスファルトだった足元一面に、彼岸花が咲き誇っていた。
柔らかな物腰のまま、にっこりと艶やかに微笑まれる。
「食後の甘味はまだですね」
「いっ――いやあああああぁぁぁぁ~~っ!!」