第4章 米/甘 私は恋を疑う
沈黙に耐え切れず、私は立ち止まる。アルも足をとめた。
なんだか気まずくて、思わず挑むようにギロっとアルを睨みつけてしまう。
「な、なによ」
そう訊いてみるが、当のアルは機嫌よさげに笑んでいるだけだ。
いやに優しげだった声音、今にも鼻歌を歌いだしかねないるんるんとした様子。
警戒というか、アルの考えていることにアタリがつくやらで、とてつもなく居心地が悪かった。
そんな険しい顔の私に、アルが無邪気に畳みかける。
「それだけかい?」
「それ以外……あるわけないでしょ」
「ほんとうに?」
「ほんと! 何度もしつこいわよ!」
言い張るが、意図に反してアルはくっくと笑った。
子どもを見守るような、まるで、私の心を全て見透かしたような笑みだった。
あぁもう、なにを言っても逆効果になりそうだ。
アルから目線をそらしまっすぐ前に向けて、逃げるように歩き出す。
ワンテンポ遅れてアルもついてくる
それから、少し身をかがめて私の顔を覗きこみ、
「それじゃ俺はこれからも、善意のボランティアを続けることにするよ!」
と、眩しい笑顔で得意げに宣言した。
はいはいと生返事を返すこともできず、ごにょごにょと口ごもってしまう。
わずかに熱を帯びた顔を悟られまいと、道路側に顔を向けた。
――いやいや、そんなわけない
湧き出した感情を慌てて掻き回して、ひたすら中空に紛れる自分の白い息を眺める。
冬の風はその熱を冷ましてくれそうになかった。
オシロイバナ
私は恋を疑う / あなたを想う