第2章 リクエスト
建築依頼が来た。雨栗さんからだった。
俺は飛び上がりたくなる程の喜びをぐっと胸の中に仕舞い、雨栗さんからのリクエストを何度も読み返す。ダークファンタジーな城を作って欲しいらしい。俺の得意分野だ。
とはいっても、しばらく建築界隈から離れていた俺だ。リハビリがてら自分の過去作を見に行くと、あ、ここダメだ、こっちもダメだと手直しし始めてしまい、それなら配信でもするか、となんとなく配信ボタンを押したのが今ここである。
「いやぁ、城建築好きなんだけど需要ないんだよな」
と俺の配信にわざわざ見に来てくれている視聴者さんたちは絶対俺の城を需要にしているはずなのに、軽々しく暗い言葉なんて吐いてしまう。だが俺はそこまで有名人でもないので荒れたりはしない。そんなことないって言われたかっただけだよな、ありがとう、みんな。
「リクエストが来てさ」
俺はそうして城建築のリクエストがあったことを明かした。誰からのリクエストなのか、名前を口にしたら波乱を呼びそうなので黙って置く。雨栗さんのリクエストがただの気まぐれなのか、それとも撮影に使う何かなのか。分からないけど、雨栗さんから、というものがすでに嬉しくて、ウキウキしてしまうのがみんなにはバレてしまわないようにと敢えて声のトーンを落として喋る。
「リクエストのために、少しリハビリしたくてさ」
と言いながらも、過去作の手直しはやめられないまま作業を続けて、ボーッとチャット欄を眺める。
雨栗さんが来るのを待っている。
いやいや、今更俺の配信に来ることはもうないだろう。見るからに忙しそうな人だし、俺とは天地の差がある訳で。
その差を、城が繋げているのだと思うと。
「俺、城建築続けてて良かったわ」
こんなに成長したんだし、と付け足して、俺は配信を終えた。