第3章 *File.3*黒羽快斗*(R18)
「雪乃」
「はいっ?」
「…悪ぃ」
「それは、何に対して?」
謝罪を口にすると、驚きの声が一転、酷く冷静なそれに変わった。
「さっき…青子を、フッた」
「……どう、して?」
パーティーから帰って、約2時間。
話があるからと連絡を入れて、雪乃を自宅へ招き入れた。
普段から互いの家には行き来するから、時間が遅くても特に抵抗はない。
が、今日はリビングに着くなり振り返ると、無言のまま雪乃を抱き締めた。
偶然に雪乃と手や肩が触れ合うことがあっても、一人のオトコとして、雪乃を一人のオンナと意識して抱き締めるのは初めてだ。
俺は今まで意識しないようにしていた、から。
今夜は互いの両親は留守。
両親達の友人である、工藤邸で行われるクリスマスパーティに参加中。
当然お酒が入るから、そのまま今晩はお泊まり。
腕の中で真っ直ぐに見上げるのは、明らかに俺を責める視線と口調。
「俺はずっと…雪乃、お前が好きなんだ」
「快斗…」
そのままスッと視線をそらされ、ゆっくりと瞼が閉じられた。
俺と青子の関係を周りの人間に未だ誤解されているのは、望月雪乃と言う、俺達にはもう一人の幼馴染がいることを知らなかったから。
英国帰り同士もあって気が合うのか、雪乃は白馬探と仲が良いから。
「ずっと前から、青子の気持ちには気づいていた」
「…まあ、あれだけ素直であからさまだったら、ね」
「けど、雪乃の気持ちだけは、俺にも分からねーんだ」
嫌われてはいない。
寧ろ、幼馴染として好かれている。
だけど、その好きの意味が何時も曖昧で。
そこに恋愛感情があるのかどうか、未だ決定打に欠ける。
幼馴染兼男友達。
再会してから1年半以上、俺に対する雪乃の態度は決してその域から出ることはなかった。
それは絶対に意識しての言動。
理由は?
雪乃の中で、本当に俺はただの幼馴染だから?
態度があからさまな青子を意識して、自分の気持ちを抑えるため?
それとも、俺以外の誰かを好きだから?