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*名探偵コナン*短編集*

第1章 *File.1*諸伏 景光*


「どうかしたのか?ヒロ」
「何でもないよ」
「そんなワケないだろ」

隣に座るゼロは、相も変わらず鋭い。
久々に五人で集まった、居酒屋の一室。
オレはテーブルから少し離れ、壁に持たれて座り直す。
薄いパーテーション越しだと、隣の客人の会話なんかも時折聞こえて来るわけで。
まさか、とは思う。

『雪乃』

特別珍しい名前でもない。
だけど…。
今夜は何故か理屈抜きで、直感的に気になって仕方なかった。
此処にいる、雪乃と呼ばれる女性が一体どんな人なのか?
隣の部屋から楽しげな笑い声が響く中、確かに何度か聞こえた、彼女の名前。
四人の若い女性がいるのに、肝心の彼女の声は全く聞こえてこない。
忘れるはずもない、聞き間違えるはずもない、彼女の声。

「お前、実は具合悪ぃのか?」
「大丈夫。それはないよ」

普段と変わり無く話をしていても、耳だけは隣の部屋に集中させる。

「何?隣の女の子達が気になんのー?」
「そういやモテるくせに、もう何年も女いねえよな」

萩原の隣で、松田がテーブル越しに首を傾げた。

「ちょっと、ね。別に彼女が欲しくないわけじゃないよ、オレだって男だし」

でも、此処にいるワケがないだろう?
本当は分かってるんだ。
夢の中で?出逢った彼女にとってオレ達はみんな、ある漫画の中のキャラクターだったから。
所謂、二次元の世界の住人と呼ばれるやつ。
それでもオレは、彼女を愛してしまった。
それでも彼女は、オレを愛してくれたんだ。
半年前、夢の中で?彼女と過ごした三日間は、今でもハッキリと覚えている。
この世界で何時の日にかまた、望月雪乃。
キミと出逢えるんじゃないかって、ずっと諦められずにいるよ。
この世界へ戻った、あの瞬間から。
タイムリミットを迎え、此処へ戻ってくる直前まで確かにこの腕の中にあったはずの彼女の温もりが、無情にも呆気なく消えた、あの瞬間から。

『また、必ず逢おうね』
『ああ。何時か、必ず』

彼女の願いが込められた短い別れの言葉に、ふわりと重なった唇。
その瞳には涙を浮かべての、満面の笑顔。
あの笑顔はこの目に焼き付いて、今でもこんなにも鮮明に思い出せるのに。

「恋煩い、か?」
「っ!?」

班長の鋭い、でも今のオレの心情を察したかのような感情が含まれた一言に、絶句する。


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