第2章 少女、結婚する。
『お父様、ごめんなさい。わざわざ呼び出してしまって』
「いや、構わないさ。そちらは…神里の当主様だね。お久しぶりです」
昔彼が家に遊びにきた事もあったから、お父様も知っていたのだろう。
「ええ、お久しぶりです。お身体の方はいかがですか?」
「ああ。ついにガタが来てね。もう長くないんだ」
「そうでしたか…」
一気に部屋の空気がどんよりと曇った気がした。暗い話題はこうだからいけない。
「雰囲気を暗くしてすまないね。大事な話があったのだろう?話してくれないかい」
『はい、お父様』
緊張するが、なんとしても伝えなければ。
『お父様、椿。私は神里 綾人と結婚したいの』
「おお!遂に薫にも春が…」
『も、もう…』
昔から色恋沙汰には疎い。誰が誰を好きだとか、付き合ったとか、そんなのどうでもいい。私は、ただ商会に貢献できる人物だったら誰でもいいと思っていたし。
「お、お姉ちゃんが…結婚⁉︎」
『椿』
「あっ、ご、ごめんなさい。お姉様」
まぁ、驚く気持ちは分かる。今まで逢瀬する時間とかそんなものは無かったし、そんな話も言ってなかったから疑う気持ちも分かる。
「結婚式は数日中に行いたいと考えています」
「す、数日⁉︎」
『ごめんなさい。本当はもっと先に行う予定だったんだけど、どうしてもお父様に晴れ姿を見てもらいたくて』
嘘八百にも程があるが、そういう体で話さないとこの結婚式の日程の異常さは説明がつかない。
「そうか…私の為に…」
『謝らないで下さい、お父様。謝ってほしくて急に日程をずらした訳じゃないの』
「そうだね。私の為に、ありがとう。薫、神里様」
本当はお父様の為ではないけど、他になんて言い訳したらいいか分からなかった。
『話は以上よ。これからについては椿と話し合うわ』
「はい、お姉様」
「もう日が暮れるね。此処から神里屋敷に戻るには時間がかかるだろう。泊まっていくといい」
確かに、この時間から神里屋敷に戻るとなると、到着は夜中だ。客人を夜中に帰らせるのは礼儀に反するか。
「では、お言葉に甘えて」
「薫、客室へ案内しなさい」
『はい』
席を立って応接室を出る。なんとかお父様と椿を騙せて良かったと、ほっとしてしまった。本当は騙したくなんてなかったのに。
『客間はこちらです。どうぞ』
「失礼します」
『では、また夕飯の時に侍女が呼びに来ますから』
