第73章 隻眼
数分で目的地に到着し、辺りを見回していると
何度も見たことがあるダークグリーンのスーツを着ている男性を発見し、彼に近づいた。
『風見さん、お待たせしました。』
「いえ。急な場所変更で
ご足労をおかけしました。」
『殺人事件があったんですよね?仕方ないですよ。』
「それより、よく分かりましたね、
あなたに送った数字が表している場所がこの公園だと…」
『あれだけ長い数字で表されるのなんて
経度と緯度くらいしかないですから。』
「さすが、降谷さんの奥様なだけありますね。」
『あはは、それほどでも。』
「ではそろそろ…、時間があまりないので
簡単に説明させて頂きます。」
身に付けている眼鏡を指でくいっと持ち上げた風見さんは、とても真剣な表情で話し始めた。
「先程日比谷公園で殺害されたのは…、
警視庁捜査一課、改革準備室に所属していた
鮫谷警部です。」
『えっ…、警察の人間が殺害されたんですか…!?』
「はい。鮫谷警部は我々公安の指示で
ある事件を調べていました。…それが、こちらです。」
風見さんは手に持っていたタブレットを私に向け
その画面には雪山の写真が載せられていた。
『長野県…、未宝岳で起きた雪崩事故、ですか?
どうして捜査一課の人がこれを……、
…あ。まさか鮫谷警部は隠れ公安の1人とか?』
「っ、あなたは本当に恐ろしいほど察しがいいですね…
その通りです。この雪崩事故は、長野県警にいる1人の刑事が、指名手配中の犯人を追跡している時に巻き込まれたのですが…、
昨日、鮫谷警部が得た情報によると
犯人追跡中に、1人の不審人物を見かけたようなんです。」
『…。その不審人物を、公安警察が捕まえたい理由は?』
「…若山さんは、
新たな司法取引制度が導入されることはご存知ですか?」
『え…?それって…、今審議が停滞してる
刑事訴訟法改正案のことですよね?』
「はい…。その制度の導入を阻止するよう
日本政府に脅迫してきた者がいるんです。」
『その犯人が雪崩事故の現場にいた不審人物で
その事故を調べていた鮫谷警部を口封じした、と?』
「我々公安は、そう推測しています。」
…あれ?
どうしてその不審人物が
政府を脅してきた犯人だって分かるの??