第3章 第二話 マテールの亡霊
絞り出した声に、ユキサの首元が光る。
まだ安定してないイノセンスを発動する事は危険が伴う。
慌ててアレンが止めようとするが、ユキサは続けた。
「は、ぁ…!プリマ、お…ねが…」
彼の者の、傷を癒やし給えーーーーー。
途切れ途切れに紡ぐ言葉に、ふわりと優しい光がアレンを包む。
驚いたアレンの体の傷が、どんどん癒やされていった。
「これは…」
「行こ、う…アレン…!」
今は説明してる時間がない。
そう急かすように立ち上がるユキサに、不安を覚えながらもアレンも立ち上がる。
ユキサがスノーベルを呼んだ。
「スノ、ウ…神田さんたちを、探して…」
コクコクと頷いたスノーベルは、夜空へと舞い上がる。
スノウを見ながら、2人もその場を後にした。
一方その頃、神田はトマが戻るのを待っていた。
ス、と近くに感じた気配に、神田は咄嗟に柄に手をかける。
が、相手がトマだと分かると部屋の扉を開けた。
「マテールの亡霊は?」
トマの問いに、逃げられたと答えた神田へトマは崩れたティムキャンピーを差し出した。
ティムキャンピーはすぐに元の姿に戻る。
映像を見せてくれ、と言われたティムキャンピーは先程のAKUMAとの戦闘を見せた。
アレンの姿になっているAKUMAを見て、神田はすぐに気づく。
鏡のように、映し出されているアレン。
「逆さま、ですか…」
トマがポツリと呟いた。
「こっちよ」
グゾルの手を引きながら、ララが彩音と不二に声をかける。
暗い道を進む4人は足元に気をつけながら歩いていた。
この道はララしか知らないらしく、ここならエクソシストもAKUMAも来ないと言った。
大丈夫なのかい?と心配するグゾルに、ララは大丈夫よ、と答えている。
後ろを歩く彩音と不二は、そんな2人に着いていきながら、先程の事を思い出していた。
通信機から漏れてきたあのトマの言葉…。
「周助…」
「違う。そんな事あるはずがない」
ただの偶然だよ、と言った不二の言葉は、わずかに震えている。
分かっている、ここは明らかに自分たちと居た世界とは違う。
だから、彼女だって、いるはずはないんだ…。
だけど、もしも死んだはずの彼女が、ここにいるのだとしたら…?
こんな怪物がいる世界、ここがあの世だとしたら…?
こんな偶然、あるはずが…。