第19章 大切な記憶
悟は夜蛾学長の所に行くって言っていた。とりあえずはそこから帰って来るのを待とう。
混乱しているからと言って、取り乱しても仕方がない。
もしかしたら数時間後には治るかもしれないし、夜寝て朝目が覚めたら治っているかもしれない。
それを信じて、今は冷静にならないと。
少しばかり泣きそうになる感情を無理矢理抑え込んで、学長室からの帰り道で通るであろう中庭のベンチで待っていると。
「ヒナ、どうしたの?まだ帰って無かったんだ」
そんな何気ない言葉にですら、今は違和感しか感じなくて…そして虚しさが私の心にシコリを残す。
きっといつもなら…「ヒナだぁ!もしかして僕のこと待っててくれたのー?一緒に帰ろ!帰りにケーキ買って映画でも観ながら食べよっか!」とか言ってくれるんだと思う。
今そんな事を考えたとして、何の意味もないのに。いつもの悟じゃないことが酷く苦しくて辛い。