第5章 侵食を繰り返す荒波の記憶
「んー ……ああ。 なにが変なのかは分かんねえけど、アレで一ヶ月ぐらいは食ってけるな。 車で良かったなと、つくづく」
「食って……」
「……思い出すと反応しちまうから勘弁。 そうだな…服装。 向こう帰ったら、いつもそんな感じでよろしく頼む」
「う、うん? 分かったよ」
色々不可解だったけど、変ではなかったらしい。
私が今着ているのはストンとしたシャツワンピース。
単に荷物がかさばらないからここでよく着てるだけなんだけど、タクマさんはワンピースが好きなのかなと思った。
また新しくタクマさんを知ることが出来た。
私の心は嬉しさが重なった幸せミルフィーユ状態だ。
こんなものをくれるのはタクマさんだけ。
「……タクマさん。 大好きだよ」
「100回ぐらい聞いた」
「一つ一つ、違うんだよ。 今の大好きは今までで一番の、感謝を込めた好き……わっ?」
タクマさんがこっちを向いたと思うと肩を押される。
勢いよく私が後ろに倒れ、驚いて目をぎゅっとつぶった。
「綾乃。 オマエのそういうとこも、オレは嫌いじゃない」
気付くと、砂浜と背中との間に差し込まれたタクマさんの腕が私を支えていた。
逆光で彼の顔はよく見えない。
けど、辛うじて聞き取れるほどの、いつかの、彼の低くて甘い声。
「タ…クマさん……?」
「そのうち言葉じゃ足りなくなる。 だからって、説明不足を誤魔化すために抱き合うことは、オマエとはしないと思うから」
額に汗がにじんだ。
自分の鼓動がうるさいほど速く打ち始めて頭が回らない。
「…え…っと、意味がよく……」
「だからこうするのはただ、綾乃を欲しい時だけだ」
地面に縫い付けられて重ねた指に力がこもり、さらに体を倒してきた彼に唇を塞がれる。
ゴウと吹く潮風と迫る波音。