第33章 純黒の
『おかげになった電話をお呼びしましたが、電波の届かないところにいるか電源が入って………』
「…出ない」
何度か電話を掛けたが、返ってくるのはこの機械音だけ。
やっぱり忙しいのかな。
私の履歴に『沖矢昴』の文字が増えていく。
そう、電話を掛けていた相手は赤井さん。
もし女性が本当に組織に関与する人物ならば、何か知っているかもしれないと思ったのだ。
あわよくば情報をくれないかと思っていたのだが、電話に出てもらえないならそれ以前の問題だな。
諦めて目暮警部や子供たちの所へ戻ると、何やら数人の男性が女性の元へ尋ねてきた。
「失礼します。警視庁公安部の風見です。
ここの責任者は目暮警部とお聞きしましたが、あなたが目暮警部ですか?」
「如何にも、私が目暮だが」
「そちらにいる女性を速やかにこちらに引き渡してもらいたい」
「何故だね?我々にも捜査の権利はあるはずだが」
「その女性は警察庁に侵入した被疑者だ。その目的をすぐに聴取しなければならないんですよ。
分かっていただけたのでしたら、すぐに身柄引渡しの手続きを始めてもらいたい。あなた達にこれを拒否する権限は無いのだから」
突然現れ、突然理不尽なことを言い出す公安。
「ちょっと待ってください」
「…君は」
「国際犯罪対策課、警部のです。
警察庁に侵入した被疑者と仰っていましたが、その詳細をもう少しお話し願います」
「極秘だ」
「なるほど、では聞き方を変えます。
何故、警察庁の案件をあなた方警視庁公安部の方々が扱っているのでしょうか?もしかして、察庁の誰かからの指示だとか?」
「それも極秘扱いだ。一体何だ君は」
「いえ、私も少々この件に関わっているものですから理不尽な命令には多少なりとも抗いたくなるんです。
特に、秘密主義でなーんにも教えてくれないあなた方公安には」
特段公安に恨みがあるとかそういう訳では無いが、何も教えず事を進める姿はやはり気に食わない。
微笑みながらも睨みを利かせる私に、風見という男は少し後ずさった。
「……申請書は用意してある。
目暮警部、すぐに署名をお願いします」
「わ、わかった…」
私の抗いも虚しく、結局女性の身柄は公安へと引き渡されてしまった。