第32章 お食事
「あなたは先日、降谷くんと離れたくないと言っていましたよね?」
「…随分と唐突ですね」
「いや、そうでもありませんよ」
どの辺がそうでも無いのか。
だいぶ脈絡の無い話だったと思うけど。
「なぜ、あなたはそこまで降谷くんに固執するのですか」
開かれてはいないが、その奥に有るであろう翠眼は確実に私を捉えていた。
言っても、いいのだろうか。
「……同期、なんです。警察学校時代の」
口が滑ったのは、少し飲みすぎたワインのせいだ。
「以前工藤邸でご飯をご馳走になった時、なぜ私が警察官をやっているのかお話したのを覚えていますか?」
「えぇ」
「その時お話した大切な仲間が、警察学校で出会った彼、いや、彼らでした。
たったの半年間でしたけど、その短い間に彼らは沢山のものを与えてくれた。あの半年という時間は、私にとって何にも代え難い宝物なんです。
でも、その大切な同期たちは5人中4人……亡くなりました。
1人は、卒業後すぐ爆弾テロに巻き込まれて。
1人は、その4年後同一犯による爆弾テロから市民を守るために自分を犠牲にして。
1人は、職務中に居眠り運転の車に跳ねられてあっけなく。
もう1人は……分かりません。
3年前、ただ死んだとだけ伝えられました。どこで、どうやって、なぜ死んだのか、私には知ることは出来ない」
お酒の入った私の口は、1度吐き出したら止まらなかった。
「警察官になってからの7年間は、失ってばかりでした。
大切なものが、一つ一つ手からこぼれ落ちる感覚。正直、気が狂いそうだった。
それでも、私は警察官だから。市民を守り、この国に奉仕することが使命だから。そう、あいつらと誓ったから。だから、あいつらが残したものを頼りに今日まで我武者羅に生きてきました。
……でも、本当は、もうこれ以上失いたくない。誰にも奪われたくない。私にはもう、ゼロしかいない。
今、私にとっての生きる理由はゼロなんです。
ゼロを失ったら、多分私は私でいられなくなる。
だから、ゼロを失わないためなら何だってする。そう、決めたんです」