第22章 雨の日は
ゼロの頭を拭き終えて、私はキッチンへ向かった。
温かい飲み物を出そうと戸棚を漁っているが、生憎お茶らしき物はひとつも無い。
おまけに冷蔵庫も空っぽ。
そりゃそうだ。
私だって、ついさっき1ヶ月ぶりに家に帰ってきたばかりなんだから。
仕方が無いので、ケトルでお湯を沸かして白湯を作った。
「ごめん、今うちこれくらいしか出せないけど、とりあえず体あっためて」
今は12月。
本格的な寒さにはとっくに突入している。
こんな日に雨に打たれるなんてさぞかし寒かっただろうに。
さっき握ったゼロの手も凄く冷たかった。
ローテーブルに置いたマグカップを握って、静かに白湯を啜るゼロ。
部屋が暗いせいで、その表情は相変わらず読めない。
そんな横顔を私は眺める。
「……それで、何があったの?」
私は静かに口を開く。
しばらく動きを止めた後、ゆっくりとマグカップを置いてゼロがこちらに向き直り、唇を震わせながら口を開いた。
「………ヒロが、死んだ」
その瞬間、やっとゼロの顔が見えた。
私の目に映ったその青い瞳は、悲しみと後悔と遺憾と虚無と、とにかく色んな思いを孕んだものだった。
まるで先程までの自分を見ているようで、どうしようもないほどに胸が締め付けられる。
ゆっくりと近づいて、私はその首に腕を回して抱きしめた。
「……なんだ」
「…黙ってて」
なぜこんな行動を取ったのか、私にも分からない。
慰めたいわけでも、励ましたいわけでもない。
ただ、今にも張り裂けそうな心をどうにかして押さえつけたかったのかもしれない。
ゼロの頭を抱えるように、更にぎゅっと腕に力を込める。
すると、私の背中にも手が回ってきた。
その手は、服越しでも分かるほどにやはり冷たかった。
互いに力強く抱きしめあって、それでも枯れた涙は出てこなくて、音もなくただ時間が過ぎていった。