第17章 幸せな音が溢れる世界で
中でも私の心を1番震わせたのは
自分自身を愛せない鈴音を
どうか愛してやって欲しい
強がりな癖に弱いあの子には
君のような男が必要だ
老い先短い爺さんの願いを
どうか叶えて欲しい
そんな言葉だった。
「…っ…う……じぃちゃん…っ……じぃちゃん…」
私はじぃちゃんの文を胸に抱き、その場に膝をつき咽び泣いた。
伝えたかったのに伝えられなかったと後悔した杏寿郎さんとの関係を。こんな私を好きになってくれる人が現れたという事を。じぃちゃんは、知ってくれていた。…いや、杏寿郎さんが知らせてくれていた。
その事があまりにも嬉しくて、つい先程まきをさんが涙で崩れた化粧を直してくれたばかりだと言うのに、それが無意味になってしまう程ボロボロと涙を流し続けた。
杏寿郎さんは、そんな私に合わせるように両膝をつき
「そんなに強く抱き込んだら皺になってしまう。君への愛がたっぷり詰まった桑島殿の文が駄目になってしまっては大変だ」
文を抱く私の両手に優しくその手を重ねてきた。それから、私の手から優しく文を抜き取ると、封筒の中にしまおうとした。
そんな杏寿郎さんに
「…っ杏寿郎さん!」
私は
ドンッ
と、思い切り抱きついた。
杏寿郎さんは、そんな私の身体を少しもよろける事なく抱き留めると
「こら。危ないだろう」
私の行動を咎めるようにそう言った。けれども、その口調はちっとも怒っている様子はなく、穏やかで、杏寿郎さんの愛情を強く感じられるそれだった。
私は杏寿郎さんの背中に回した腕の力を強め、その身体に、これでもかと言う程身を寄せる。
そして
「…っ…好きです…大好きです…世界で1番…誰よりも…杏寿郎さんの事を…愛してる…」
自分が知り得る愛の言葉を全て並べ、杏寿郎さんへの溢れて止まらない気持ちを表現した。