第8章 響かせろ、もっと遠くまで
あの人は苦手だけど…同じお団子好きみたいだし…教えてあげないのは可哀想かな
そう思った私が
「…お店の場所と名前…お教えするので、どうか大きな声で詰め寄ってくるのはやめてください」
仕方なしにそう言うと
「本当か!?よし教えろ!今すぐ教えろぉぉぉ!」
男が再び騒ぎ始めたので
…やっぱり教えるの…やめようかな
そう思ってしまったのは仕方ないことだと思う。
「君がここにいると聞き急いで来たのだが…よもやあんな事態になっているとは!全くの予想外だ!」
「…私もまさか…あんな風にみたらし団子を買った店を教えろと大の男に詰め寄られながら聞かれる日が来るとは…夢にも思っていませんでした」
あの後、店の名前と場所を教えると、みたらし団子好きの刀鍛冶…鋼鐵塚蛍と言う名の刀鍛冶は満足げに去って行ったのだ。
正直に言うと、あんなふうに詰め寄られ”こんな奴に教えたくない”と思う気持ちが強かった。それでも、やはり私も同じみたらし団子好きである。あのお店の味を気に入ってくれたことは純粋に嬉しいし、私がお勧めすることで、あのお店の売り上げが少しでも上がるのであれば尚嬉しい。だから渋々ながらも教えることにした。
うるさい男は去って行ったものの、大事な仕事場を騒がせてしまった罪悪感で、もうあの場に留まることは出来なかった。ただ音が聴きたいというしょうもない理由であの場にいることを許してくれた刀鍛冶の方々にお礼を述べ
"またいつでも来なぁ!''
と言う優しい言葉に喜びを感じながら、私は炎柱様と共に工房を後にした…のが今から少し前の出来事である。